遺言は、自分の財産を誰にどのように残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための手段です。
死後に残された財産を巡ってトラブルが起こる可能性があるため、事前に遺言を作成し、スムーズな相続が行われるように準備しておきましょう。
遺言書には法的効力がある
遺言書とは、死後の財産の分け方などを示した法的効力を持つ書面です。生前に財産をだれにどのように分割するかを明確にしておくことで、自分の希望通りに財産を相続させることができます。
もし、被相続人(亡くなった人)が遺言書を作成していない場合、遺産の分け方は法定相続人全員で話し合って決めることになります。
民法における遺言書
民法では、「遺言書を作成する場合、民法の規定に従っていないと法的効力を持たない」と示されています(第960条)。法的効力を持つ遺言書を作成するためには、事前に遺言の要件をしっかりと確認することが大切です。
主な遺言書の種類4つ
遺言書は大別すると、以下の4つの種類があります。
1.自筆証書遺言
自筆証書遺言は、自筆で作成した遺言書です。誰でもすぐに作成できますが、形式が定められており、沿わないと無効になる恐れがあります。また、紛失や偽造などのリスクもあるため、注意が必要です。
2.公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらい、公証役場で保管される遺言書です。自筆証書遺言と違い、公証人が作成するため、形式を誤ることなく、無効になる心配もありません。さらに、公証役場で保管されるため、紛失や変造のリスクも避けられます。そのため、自筆証書遺言と比べて、リスクが低い遺言書と言えます。
3.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分で作成した遺言書を公証役場に持参し、公証人にその存在を証明してもらった遺言です。遺言書は遺言者自身が保管するか、誰かに保管を依頼することも可能です。公証人による証明があるため、遺言書を遺言者本人が作成したことが確認でき、自筆証書遺言よりもリスクが低いです。
4.特別方式遺言
特別方式遺言は、遺言者が病気や災害などの緊急事態にある場合や、伝染病で隔離されているなどの事情で正式な遺言書を作成することが難しい場合に、一時的に作成される遺言書です。この遺言書はあくまで一時的なものであり、遺言者が通常の方式で遺言を作成できる状況に戻ってから6カ月間生存すると、その効力は失われ、改めて通常の遺言書を作成する必要があります。
遺言書の書き方
書く内容は同じでも、必要な手順や形式は異なります。それぞれの遺言書の書き方を大まかに説明します。
1.自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は、遺言者が日付や氏名を含めて全文を自筆で書かなければなりません。最も簡単に作成できる遺言書で、氏名を書き終え、押印したら完成です。なお、不動産の情報は登記簿謄本に記載されているものをそのまま記載してください。
遺言書には相続財産の目録を添付します。2019年の民法改正により、財産目録だけはパソコンで作成しても問題ありません。
2.公正証書遺言の書き方(最も選ばれることが多い)
公正証書遺言は、二人以上の証人の立ち会いのもと、公証人が遺言者から遺言内容を聞き取りながら作成する遺言です。
公正証書遺言を作成するには、遺言者の本人証明のために実印と印鑑証明書を用意し、二人以上の証人を連れて公証役場に行く必要があります。
そこで公証人に遺言の内容を伝え、遺言書を作成します。
遺言者が亡くなった後、最寄りの公証役場に行き、遺言書の内容を確認して相続手続きを行います。
3.秘密証書遺言の書き方
秘密証書遺言は、二人以上の証人を連れて公証役場に遺言書を持ち込み、遺言書の存在を保証してもらう遺言です。
秘密証書遺言では、署名と押印だけを遺言者が行えば、遺言書自体はパソコンで作成したり、代筆でも問題ありません。
遺言書は自身で保管する必要があり、自筆証書遺言と同様、家庭裁判所で検認してもらう必要があるため、勝手に開封しないよう注意が必要です。
4.特別方式遺言の書き方
特別方式遺言は、通常の遺言書を作成できない状況で作成されるため、その時の状況によって作成方法が異なります。
例えば、死期が迫っている場合には、証人3人以上の立ち会いのもと、証人の一人に遺言内容を口頭で伝え、証人がこれを記載します。これを一般臨終遺言といいます。
また、伝染病で隔離されている場合は、警察官1人と証人1人以上の立ち会いのもと、遺言者本人が遺言書を作成します。これを一般隔絶地遺言といいます。
さらに船舶内では、船長または事務員1人と証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者本人が遺言書を作成します。これを船舶隔絶地遺言といいます。
自筆証書遺言の注意点
費用が少なく気軽に作成できる自筆証書遺言ですが、法律で定められた要件を守らないと無効になるリスクがあります。
以下の要件がすべて守られているか、注意しましょう。
遺言書の注意点、様式の詳細はこちら
自筆証書として認められる要件
①全文自書
遺言書の本文(全文)は自筆で書く必要があります。ワープロや文書作成ソフトで作成した遺言は無効です。また、消えないペンを使い、鉛筆や消せるペンは避けましょう。なお、財産目録のみワープロやパソコンの使用が認められていますが、署名押印が必要です。
②氏名の自書と押印
遺言書の作成者を明確にするために、本人が自書した氏名と押印が必要です。認印でも問題ありませんが、実印を使用するほうがより安全です。
③日付の自書
日付を自書することで、最新の遺言書の効力が判定されます。年月のみや「〇月吉日」は無効です。「〇〇年〇月〇日」と具体的な日付を記入しましょう。
④加除その他の変更
訂正や変更をする際は、訂正印を押し、訂正の内容や加除した文字を記載します。無効になるのは訂正行為のみで、元の遺言書の内容は無効にはなりません。
⑤遺留分トラブル
遺留分とは、遺言内容に関わらず最低限相続できる権利のことです。
たとえ全財産を一人に相続させる遺言があっても、他の相続人は「遺留分侵害額請求」として遺留分を請求できます。自筆証書遺言を専門家に相談せず作成した場合、遺留分を侵害する可能性があります。
遺留分を侵害すると、相続人間のトラブルが発生しやすくなります。
そのため不安な場合は、公正証書で遺言書を作成するか、専門家に遺言書の内容を確認してもらうと良いでしょう。
また、分配が複雑な場合は、専門家を遺言執行者として指定するのも一つの方法です。
⑥複数枚になったら契印と封をする
遺言書が2枚以上になる場合、ホチキスなどで綴じて契印をしましょう。契印とは、複数のページが一式の書類であることを証明するために、ページをまたいで押す印鑑のことです。
契印は必須ではありませんが、偽造や変造を防ぐために重要です。また、遺言書を封筒に入れて封印し、保管することも偽造や変造の防止に役立ちます。
遺言書で相続人を困らせないための注意点3つ
公正証書遺言であれば形式の誤りで無効になることはありませんが、内容の精査はされません。自筆証書遺言の場合はもちろん、公正証書遺言の場合でも、以下の3点に注意しましょう。
1.意思を明確に記載
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に理解できるように記載する必要があります。遺言書を開封したときに遺言者本人に内容を確認することができないためです。過去の判例では、「遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべき」とされていますが、曖昧な表記は相続人間でのトラブルを引き起こす可能性があります。遺言内容は明確でわかりやすく記載しましょう。
2.遺留分に配慮
兄弟姉妹以外の相続人には、法律上、遺留分として最低限相続できる権利が認められています。遺留分を下回る財産しか相続させないという遺言も法律上有効ですが、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。遺言によって遺留分を侵害すると、相続人同士でもめ事が起きる可能性があるため、遺留分に配慮して遺言書を作成しましょう。最低限度の相続分を割り振ることで、無用なトラブルを避けることができます。
3.遺言執行者を選任しておく
相続財産の中に不動産が含まれる場合、遺言者が亡くなった後、不動産の名義変更手続きが必要になります。この手続には、相続人全員の協力が必要です。
そのため、相続人の負担を軽減するために、遺言書の中で遺言執行者を選任しておくと良いでしょう。
遺言執行者は、遺言書の内容に従って相続手続きを単独で行う権限を持つので、相続人の協力が得られない場合でも、遺言執行者が手続きを進めることができます。
遺言執行者は相続人の中から選任しても良いですが、専門的な知識が必要なため、弁護士や司法書士に依頼した方がいいでしょう。
おわりに:ご自身の意思にそった遺言書を不備なく作成しましょう
遺産は被相続人が長い人生をかけて築いてきた財産です。誰に何をどのように分けるかを確実に伝えるためには遺言書は重要です。
せっかく作成した遺言書が無効にならないよう、注意点を確認し、有効な遺言書を作成しましょう。
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