遺産相続にはさまざまな手続きがあり、各手続きには必要な書類があります。身近な方を失い心に余裕がない中で葬儀の手配と並行して、これらの手続きを行わなくてはいけません。
この記事では、相続発生後の流れとその期限、注意点について詳しく説明していきます。
遺産相続手続きの流れ
遺産相続が始まると、多くの手続きを行う必要があります。効率的に進めるためには、各手続きのスケジュールをあらかじめ知っておきましょう。
期限 | やること |
---|---|
ー | 遺言書有無の確認 |
ー | 相続人の確定 |
3カ月以内 | 相続放棄または限定承認 |
4カ月以内 | 所得税の準確定申告 |
ー | 財産・債務の調査 |
ー | 財産・債務の確定と評価 |
ー | 遺産分割協議(遺言書がない場合) |
ー | 遺産分割協議書の作成 |
ー | 相続税額の計算 |
10カ月以内 | 相続税申告・納付 |
1年以内 | 遺留分侵害請求 |
2年以内 | 死亡一時金の手続き |
3年以内 | 死亡保険金の受取請求 |
5年10カ月以内 | 相続税更正の請求 |
遺産相続の手続きに必要な書類
遺産相続の各手続きには、それぞれ必要な書類があります。取得に時間がかかる書類もあるため、効率的に進めるには必要書類の把握が重要です。
以下では、遺産分割協議書、相続税申告、不動産の名義変更に必要な書類を紹介します。
遺産分割協議書作成に必要な書類
遺産分割協議書は、すべての相続人が参加した遺産分割協議で合意した内容をまとめた文書です。相続税の申告、不動産の名義変更、預貯金・株式・自動車の名義変更の際に必要です。
被相続人に関する書類
・除籍謄本
・住民票の除票
・現在戸籍謄本
・改製原戸籍謄本
・戸籍の附票(死亡時の住所が登記簿謄本と異なる場合)
相続人に関する書類
・戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
・印鑑証明書と実印
相続税申告に必要な書類
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)を超える場合は、相続税の申告が必要です。必要な書類を見ておきましょう。
被相続人に関する書類
・全相続人を明らかにする戸籍謄本、または図形式の法定相続情報一覧図の写し
相続人に関する書類
・全相続人の印鑑証明書
・相続人の本人確認書類
・相続人のマイナンバー確認書類
その他必要書類
・相続税申告書
・遺言書または遺産分割協議書のコピー
金融機関の残高証明書、固定資産税評価証明書、登記簿謄本なども用意しておくとスムーズです。
不動産の名義変更(相続登記)に必要な書類
相続財産に不動産がある場合は、名義変更が必要です。
被相続人に関する書類
・出生時から死亡時までの戸籍謄本
・住民票の除票または戸籍の附票
相続人に関する書類
・全相続人の戸籍謄本
・全相続人の印鑑証明書
その他必要書類
・ 登記申請書
・遺言書または遺産分割協議書
・不動産の登記事項証明書
・固定資産評価証明書
【できるだけ早めに】遺産相続の手続き
期限が特に決まっていなくても、以下の手続きは、早めに進めることをおすすめします。
公共料金や有料サービスの名義変更や解約
ご家族が亡くなった後、まず手続きしたいのが公共料金やクレジットカード、サブスクの解約や名義変更です。手続きを忘れると余計な料金を払うことになる可能性があります。
遺言書の有無の調査と検認
遺言書の確認と検認には特に期限はありませんが、その有無によってその後の手続きが異なるため、早めに確認しておくことが重要です。
故人が自筆証書遺言を遺していた場合、発見者は勝手に開封してはいけません。遺言書の内容を変更したり、破棄したりするのを防ぐため、家庭裁判所で「検認」の手続きを受ける必要があります。この検認手続きが完了すると、家庭裁判所は「検認済証明書」を発行し、遺言書の有効性を確認できます。
相続人の調査・確定
相続人の範囲と相続順位は民法で決められています。遺産分割協議には相続人全員の参加が必要です。ご家族が把握していない相続人もいる可能性があるため、早めに被相続人の戸籍謄本を確認し、相続人を確定する必要があります。
相続財産の調査
相続が始まったら、被相続人の遺産を調査し、相続財産の目録を作成します。預貯金や土地建物、有価証券などのプラスの財産だけでなく、借金やローンといったマイナスの財産も含めて調査することが重要です。
遺産分割協議書の作成
遺産相続が始まったら、相続人全員で誰が何を相続するかを決める「遺産分割協議」を行います。協議がまとまったら、その内容を記した遺産分割協議書を作成します。相続税の申告・納付のためには、実質的に10カ月以内に遺産分割協議書を作成する必要があります。
相続財産の名義変更
通常、遺産分割協議書の作成後速やかに行います。名義変更手続きを早めに行うことで、他の手続きもスムーズに進めることができます。
【3カ月以内】に行う遺産相続の手続き
相続放棄、限定承認の検討
相続人が確定し、被相続人の財産と債務の調査が終わったら、以下の3つの相続方法から選択することができます。
1.単純承認:すべての財産を相続する
2.相続放棄:一切の財産を相続しない
3.限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する
プラスの財産が明らかに多い場合→単純承認(相続人が被相続人の財産をすべて受け入れること)
マイナスの財産が多い場合→財産を一切相続しない「相続放棄」を選択することが有効。
マイナスの財産がプラスの財産より多いか不明な場合→マイナス財産があるけれど相続したいプラスの財産がある場合は、「限定承認」が有効。
相続放棄や限定承認の手続き
相続放棄や限定承認を選ぶ場合、相続開始を知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。相続放棄の場合は「相続放棄の申述」を、限定承認の場合は「限定承認の申述」を行います。
限定承認は相続人全員が共同で家庭裁判所へ申し立てなければならず、単独で手続きできる相続放棄に比べて時間がかかります。また、相続財産の一部または全部を処分すると、単純承認とみなされるため注意が必要です。
また、遺産が多くて3カ月以内に相続放棄や限定承認が決められない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申立て」を行い、期間を延ばしてもらうことも可能です。いずれの手続きも、相続開始地の家庭裁判所で行います。
【4カ月以内】に行う遺産相続の手続き
所得税の準確定申告
被相続人が亡くなっても、一定の所得があれば所得税の申告が必要です。被相続人の所得税を相続人が代わりに申告することを「準確定申告」といいます。
準確定申告をすべき人の例
事業所得や不動産所得がある人
・2,000万円を超える給与所得がある人
・複数からの給与所得がある人
・給与・退職所得・公的年金による雑所得以外の所得が20万円を超える人
・公的年金等による収入が400万円を超える人
・生命保険の満期金や一時金を受け取った人
・土地や建物を売却した人
・株式などを売却して源泉徴収されていない人
準確定申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から4カ月以内です。期限を過ぎると延滞税がかかるので注意が必要です。
準確定申告の手続
準確定申告は、被相続人が死亡した時点での納税地の税務署に提出します。提出には、相続人の住所・氏名などを記載した書類を添付します。相続人が複数いる場合は、各相続人が連署で準確定申告書を提出します。
被相続人が確定申告によって所得税の還付を受けられる場合、申告の義務はありませんが、申告書を提出することで還付を受けることができます。
【10カ月以内】に行う遺産相続の手続き
相続税の申告と納付
相続税は、相続した財産の額に応じて課税される税金です。遺産の総額が「相続税の基礎控除額」を超える場合に相続税が発生します。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
相続税の申告と納付の期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内です。この期限内に申告と納付を行わないと、税金滞納状態となり、遅延日数に応じた延滞税がかかるので注意が必要です。
相続税の申告と納付の方法
相続税の申告は、被相続人が亡くなった時の住所地の税務署に対して行います。相続税を金融機関で納付します。延納や物納を選ぶ場合も、相続税の申告期限までに手続きを行う必要があります。
遺産分割協議がまとまっていない場合は、法定相続分で分けたものとして一旦申告・納付を行います。その後、遺産分割が確定した時点で修正申告を行うことができます。
延納や物納の方法
相続税を期限内に一括で納めることが難しい場合には、延納や物納という方法があります。延納は税金を分割して納める方法で、物納は不動産などの物で納める方法です。どちらの方法を選ぶ場合も、相続税の申告期限までに手続きを行います。
【相続税の申告〜5年以内】に行う遺産相続の手続き
遺留分侵害請求の手続き
遺留分侵害があった場合、遺留分を主張するには「遺留分侵害額請求」という手続きを行います。この請求の期限は、遺留分権利者が相続があったことと遺留分侵害があったことを知った時から1年以内(最長で相続開始から10年以内)です。この期間に請求を行わないと権利は時効となります。通常、内容証明郵便で請求を行います。
葬祭費、埋葬料の申請手続き
被相続人が国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入していた場合、居住地の市区町村役場で「葬祭費」の支給手続きを行います。喪主に対して支給される葬祭費は、自治体によって異なりますが、1~7万円程度です。
被相続人が会社員などで別の健康保険に加入していた場合は、喪主に対して「埋葬料」が支給されます。申請先はそれぞれの健康保険組合で、上限は5万円です。請求期限は葬儀を行った日から2年以内です。
相続税の還付請求の手続き
相続税の納付後、計算ミスや誤りにより相続税を納めた場合は、申告をやり直して税金を取り戻すことができます。これを「更正の請求」といいます。更正の請求の期限は、相続税の申告期限から5年以内、つまり相続開始から最長5年10カ月以内です。
このほか、厚生年金保険や国民年金の被保険者が亡くなった際、その人によって生計を維持していた遺族が「遺族厚生年金」や「遺族基礎年金」を受け取るための請求手続きも5年以内です。請求しないと受け取る権利は時効により消滅します。
遺産相続の手続きの期間
遺産相続が始まると、さまざまな手続きを期限内に行わなければなりません。遺留分侵害額請求や更正の請求などもあり、人によっては数年単位で相続に関わることになります。
相続した財産を引き継げるのは名義変更の手続き完了後から
被相続人の財産が自分の財産になるのは、各種名義変更を終わってからです。
その前段階として、遺言書の検認や遺産分割協議を行わなければなりません。
2~3カ月で手続き完了が一般的
名義変更で最も時間がかかるのは不動産の名義変更(相続登記)です。不動産の名義変更には、各種書類が必要です。遺言書の検認や遺産分割協議の必要もあり、必要書類を集めるだけでもスムーズに進んで1カ月以上かかることがあります。
申請書類が揃ったら、不動産がある場所を管轄する法務局へ提出します。遠方の場合は郵送でのやり取りになることもあり、少なくとも1週間、混雑時には1カ月かかることもあります。特にトラブルがなければ、相続開始から2~3カ月で名義変更手続きが完了するのが一般的です。
おわりに:相続手続きは計画的に
家族が亡くなった直後は、葬式や墓の選定、役所への死亡届などやるべきことが多く、遺産相続の手続きは後回しになることが多いでしょう。
また、相続手続きには被相続人や相続人の戸籍謄本や印鑑証明など多くの書類が必要です。
しかし、相続税の申告期限が過ぎてしまうと余計な税金を支払う、本来受けられる控除や特例を受けられないなど、大きな損をする可能性があります。
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