遺産相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利・義務を特定の人が引き継ぐことです。
通常、民法で定められた相続人(法定相続人)が引き継ぎますが、遺言によって相続人以外の人が遺産を受け取ることもできます。これを遺贈といい、財産を受け取る人を受遺者といいます。
遺産を相続する人の決め方と遺言書の種類
遺産を相続する人や財産の分け方は、遺言書の有無によって異なります。まず、遺言書があるかどうかを確認することが重要です。
遺言書ありのケース
被相続人が生前に遺言書を作成していた場合、その内容に従って遺産を分割します。複数の遺言書が見つかった場合は、最新のバージョンが有効となります。
なお、遺言書の種類によって手続きが異なることがあります。
遺言書の種類
遺言書には主に以下の3種類があります
1.公正証書遺言
2.自筆証書遺言
3.秘密証書遺言
詳細はこちらの記事をご確認ください。
遺言書なしのケース
遺言書がない場合、相続人全員が参加して遺産分割協議を行い、誰が何を引き継ぐのか、遺産の分け方を決める必要があります。
全員が合意したら、内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名・押印します。
遺留分とは?
亡くなった方が望めば、遺言書によって相続人以外の人にも遺産を引き継ぐことや、法定相続分とは異なる分け方を指定することができます。しかし、相続人には民法で保証された最低限の遺産、つまり遺留分が存在します。
遺留分があるのは、被相続人の配偶者、子ども(代襲相続人となる孫も含む)、父母または祖父母です。兄弟姉妹には遺留分はありません。
もし遺留分がある相続人が、遺言などで遺留分を侵害された場合、その侵害額を金銭で請求することができます。
遺留分侵害額請求権を行使できるのは、相続開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間です。
そのため、遺言書を作成する際は、遺留分を考慮した遺産の分け方を検討することが重要です。
これにより、相続人が余計な手続きや争いを避けることができます。
相続の放棄
遺産相続では、遺言書や遺産分割協議によって相続方法を決めますが、相続しないという選択肢もあります。それが相続放棄です。
遺産にはプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。
そのため、もしマイナスの財産が多い場合、相続放棄をすることで債務の返済を免れることができます。
相続放棄は、相続人が単独で行うことができます。
相続の開始を知った日から3カ月以内に、被相続人が最後に居住していた住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」と必要書類を提出して手続きを行います。
遺産相続の進め方
遺産を相続するためには、金融機関での預金の払い戻しや、不動産の名義変更などの手続きが必要です。その際、遺言書がない場合には遺産分割協議書の提出が求められます。
もし法定相続人が1人の場合は、被相続人との関係を証明する戸籍謄本などの書類の提出のみで相続手続きを進めることが可能です。
遺言書ありのケース
遺言書がある場合、その内容に従って相続手続きを進めます。以下の手順で手続きを行います。
1.公正証書遺言
公証役場で作成された公正証書遺言がある場合は、その内容を確認し、すぐに各自で相続手続きを進めます。
2.自筆証書遺言
自筆証書遺言がある場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きを行い、「検認済証明書」を取得します。これに基づいて相続手続きを進めます。
3.保管制度を利用した自筆証書遺言
法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言の場合、「遺言書情報証明書」の交付を受け、それを提出して相続手続きを進めます。
いずれの遺言書にも遺言執行者が指定されている場合、その方が遺言の内容に従って遺産分割の手続きを進めます。
遺言書なしのケース
遺言書がない場合、相続人全員が参加して遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めます。決定した内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名・押印します。この協議書と印鑑証明書を金融機関や役所に提出して、相続手続きを進めます。
遺産を引き継ぐ相続人が複数箇所で手続きを進める際には、遺産分割協議書と印鑑証明書をそれぞれの手続きに応じた数だけ用意しておくと便利です。
遺産相続のトラブル事例と対策
遺産相続の際には、書類の不備や手続きの遅延などから以下のようなトラブルが発生することがありますので気を付けてください。
トラブル事例
1.遺言書の内容があいまい
遺言書の内容が不明確だと、遺産の分け方で揉めることがあります。財産の内容を具体的に記載し、第三者にもわかるようにすることが重要です。たとえば、預貯金なら金融機関名や支店名、口座の種類を明記し、不動産は土地と建物それぞれ登記事項証明書の通りに記載することが必要です。
2.遺言書の形式不備
遺言書が法律の定める形式を満たしていないと無効になることがあります。
特に自筆証書遺言の場合、財産目録はパソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりできますが、各ページに署名・捺印が必要です。
3.遺言作成時の判断能力
遺言作成時に遺言者が認知症などで判断能力がない場合、その遺言は無効とされることがあります。
遺言書は、遺言者が健康で判断能力があるうちに作成することが大切です。
また、相続人相続人の中に認知症の人がいる場合、その人は遺産分割協議に参加できません。
この場合、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう手続きが必要です。
4.特別な相続ケース
相続人に子どもがいない場合や、再婚で前妻や後妻の子どもがいる場合、行方不明の相続人がいる場合などは、遺産分割協議が困難になることがあります。
遺言書を残しておくとスムーズに進めることができます。
対策
遺産相続のトラブルは、遺産が多い場合に限らず、遺産が少ない場合でも発生することがあります。遺産が少ない場合でも、事前に相続対策を講じておくことが重要です。
1.遺言書の作成
公証役場で公証人に作成してもらうか、自筆遺言書であれば法務局の保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを避けることができます。
2.遺留分の考慮
遺言書を作成する際には、遺留分を考慮して遺産を分けることがトラブルを防ぐポイントです。
3.専門家への相談
相続に関する問題は、専門家に相談することでスムーズに解決できます。弁護士や税理士など、専門家の助けを借りることを検討しましょう。
おわりに:遺産相続は早めの対策を!
遺産相続は、亡くなった人の大切な財産を引き継ぐ重要な手続きです。
遺産相続では、相続人の範囲や遺産の分け方、必要な書類や手続きなど、さまざまなことを理解しておく必要があります。
また、遺留分や相続放棄などの基本的な知識を持っていることで、余計なトラブルを避けることが可能です。
相続手続きをスムーズに進めるためには、早めの準備と対策が欠かせません。
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