「遺産分割協議とは」
相続が発生すると、遺言書がある場合はその内容に従って被相続人の遺産を分割します。しかし、遺言書がない場合や、遺言書の内容に不備がある場合には、法定相続人全員が集まり、遺産の分け方について話し合う必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」と呼び、その結果を書面にまとめたものが「遺産分割協議書」になります。
遺産分割協議では、相続人全員の合意が必要で、その合意に基づいて遺産が分割されるため、協議の結果は非常に重要です。まずは、誰が法定相続人であるかを確認し、被相続人(亡くなった人)の財産を明確にすることが遺産分割協議を始めるための第一歩となります。
ただ、遺産分割協議は初めてで不安を感じる方も多いでしょう。遺産分割協議の手順や注意点、そしてよくあるトラブルまで詳しく解説します。
遺産分割協議の進め方・手順
相続が発生した後、遺産分割協議書を作成するまでの一般的な流れは次のとおりです。
1.法定相続人の確認
2.法定相続分の確認
3.相続財産の確定
4.財産目録を作成
5.遺産分割協議
6.遺産分割協議書の作成
それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
1. 法定相続人の確認
遺産分割協議を進めるためには、まず誰が相続人であるかを確認する必要があります。相続が発生すると、被相続人の法定相続人が誰なのかを正確に把握することが重要です。
法定相続人の範囲は、法律によって次のように定められています。配偶者は常に相続人となり、これに加えて、子どもや親、兄弟姉妹などが相続人になります。ただし、注意すべき点として、家族全員が被相続人の血縁関係を完全に把握しているとは限りません。過去に認知された非嫡出子や養子、長年疎遠になっている兄弟姉妹がいる可能性もあります。また、被相続人が過去に離婚している場合、その元配偶者との間に生まれた子どもも相続人に含まれます。
遺産分割協議は法定相続人全員の参加が必要で、相続人を一人でも確認し損なうと、後から協議をやり直すことになる可能性があります。
相続が発生し、遺言書が存在しない場合は、まず被相続人の「生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本」を集め、法定相続人を確定させましょう。
2.法定相続分の確認
遺言書がない場合、相続を分割する割合は法律(民法)で定められた「法定相続分」に基づいて決まります。法定相続分は、相続人の構成によって異なり、配偶者がいるかどうかで大きく変わります。
・配偶者がいない場合
相続人が複数いる場合、基本的に相続財産は相続人の人数で均等に分けられます。(※例外あり)
・配偶者がいる場合
配偶者がいる場合は、他の相続人の組み合わせに応じて法定相続分が決まります。次の表がその一例です。
相続人の構成 | 配偶者の相続分 | 他の相続人の相続分 |
---|---|---|
配偶者と子供 | 1/2 | 子供が1/2を均等に |
配偶者と父母(祖父母) | 2/3 | 父母が1/3を均等に |
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹が1/4を均等に |
なお、兄弟姉妹の場合、父母の一方だけが共通する異母・異父兄弟姉妹の場合は、相続分が半分になります。ただし、法定相続分はあくまで目安であり、遺産分割協議で決まった内容が最優先されます。
3.相続財産の確定
次に、被相続人がどのような財産を持っていたのかを調べ、プラスの財産とマイナスの財産を確定させます。
相続財産の調査方法はこちらの記事を参考にしてください。
4.目録を作成
相続財産が確定したら、すべての財産をリスト化して「財産目録」を作成します。財産目録とは、相続財産を一目で把握できるようにまとめた一覧表です。法律で財産目録の作成は義務づけられていませんが、遺産分割協議をスムーズに進めるために非常に役立ちます。
財産目録の作成方法はこちらの記事を参考にしてください。
5.遺産分割協議
すべての相続財産が確定したら、いよいよ遺産分割協議を行います。この協議では、相続人全員が集まり、どのように遺産を分けるかを話し合います。協議を行う場所や方法については特別な決まりはありませんが、次の2点に注意が必要です。
1.法定相続人全員の参加が必要
遺産分割協議を成立させるためには、法定相続人全員の同意が必要です。相続人全員が一堂に会して話し合うのが理想ですが、遠方に住んでいる場合や健康上の理由で参加が難しい場合には、書面やメールでのやり取りも認められています。また、相続放棄をした場合、その相続人は協議に参加する必要はありません。
2. 遺産分割協議書を作成すること
遺産分割協議で相続人全員が合意した内容は、必ず「遺産分割協議書」として書面に残し、記録に残します。協議書の作成は、相続手続きを進める上で非常に重要です。
協議が無事に成立し、合意に至った場合には、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印を行って完了となります。
(参考)遺産分割協議がまとまらないときの解決法
遺産分割協議に期限はありませんが、長引くと相続税の納付期限(相続開始から10か月)に間に合わなくなる可能性があります。期限を過ぎると、相続税の軽減措置が受けられなくなってしまう可能性があります。
協議が何度行われても合意に至らなかったり、相続人の一部が協議に参加しなかったりする場合には、家庭裁判所での「遺産分割調停」や「遺産分割審判」の手続きを行うことが可能です。
1. 遺産分割調停
遺産分割調停は、家庭裁判所で調停委員が仲介して話し合いを進める方法です。調停委員は、相続人同士の意見を調整し、解決策を提案してくれる場合もあります。相続人同士が顔を合わせる必要がないため、対立が深刻化するのを防ぐことができます。
申立ては、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、もしくは相続人同士の合意で決めた家庭裁判所に行います。必要書類と費用を添えて、申立てを行いましょう。話し合いが成立すれば、合意内容をまとめた「調停調書」が作成され、確定判決と同じ効力を持ちます。
2. 遺産分割審判
遺産分割調停で合意に至らなかった場合、次に進むのが「遺産分割審判」です。この審判では、家庭裁判所の裁判官が相続財産の分割方法を判断し、審判によって遺産分割を決定します。審判の結果に不服がある場合は、2週間以内に高等裁判所に対して不服申立てを行うことができます。
6.遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の書き方についてはこちらの記事を参考にしてください。
遺産分割協議に関する注意点
1. 遺産分割協議に期限はない
遺産分割協議には法的な期限はありません。相続発生後、数年経過しても協議は有効です。ただし、相続税の申告期限は相続開始から10か月以内と定められており、これを過ぎると相続税の軽減措置が受けられなくなります。そのため、遺産分割協議が整わない場合は、相続税の申告期限を見越して「分割見込書」を提出し、後から適切な手続きを行う必要があります。
2. 遺産分割協議は原則やり直しができない
遺産分割協議が一度成立し、全員の署名・押印が完了すれば、基本的にやり直しはできません。ただし、新たな財産が発見された場合や、協議時に法定相続人全員が揃っていなかった場合など、やり直しが認められる例外もあります。
3. 借金の返済は協議通りに進まないことがある
被相続人の借金などの債務は、法定相続分に従って相続人全員が負担するのが原則です。遺産分割協議で特定の相続人に借金を負担させる合意があった場合でも、債権者は他の相続人に法定相続分に基づいて請求する権利があります。債権者が納得しない限り、協議通りには進まないことがあるため注意が必要です。
遺産分割協議後のよくあるトラブル
遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合
協議が終了した後に新たな相続財産が発見されるケースも少なくありません。この場合、従来の遺産分割協議はそのまま有効で、新たに発見された遺産について再度協議を行います。このような事態を防ぐために、遺産分割協議の段階で「今後発見される財産の取り扱い」についてあらかじめ決めておくことが有効です。
遺産分割協議が一度成立しても、「錯誤(重大な誤解や勘違い)」によって無効とされた裁判例があります。
遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合
遺産分割協議が終わった後に遺言書が見つかることがあります。原則として、遺言書は法定相続分や遺産分割協議よりも優先されるため、遺言書の内容に従って遺産を分割することになります。
ただし、相続人全員が遺産分割協議の内容を優先させることに同意した場合には、遺産分割協議をやり直す必要はありません。しかし、一人でも反対者がいると、協議をやり直さなければならないことがあります。
(参考)寄与分とは
寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした場合、その貢献度に応じて相続分を増やせる制度です。
寄与分が認められる主なケース
・ 被相続人が病気やけがをした際に、長期間にわたり看病を続けた
・被相続人の事業を無償で手伝い、財産の維持に貢献した
・被相続人の借金を肩代わりした
・被相続人に財産を提供した
このような寄与が認められると、相続分に上乗せして財産を取得することができます。ただし、扶養義務の範囲内と見なされる行為は寄与分として認められないこともあります。寄与分は、相続人同士で話し合い、遺産分割協議の中で決定する必要があります。
(参考)特別受益とは
特別受益とは、被相続人が生前に相続人に対して、通常の相続財産とは別に特別な利益(贈与や遺贈)を与えていた場合に、その分を相続分から差し引く制度です。
特別受益に該当する主なケース
・ 結婚や養子縁組の際に、持参金や支度金を出してもらった
・家を建ててもらった、または住宅購入資金を援助してもらった
・留学費用を負担してもらった
・事業の独立や開業資金を受け取った
特別受益を受けた相続人がいる場合、その受益分を他の相続人の相続分と公平に分配するために、遺産分割協議において調整が行われます。特別受益があると、その受けた価額分だけ他の財産から減額され、相続分が計算されます。
(参考)相続人に未成年がいる場合
相続人の中に未成年者がいる場合、遺産分割協議に親が代理で参加します。ただし、親もその相続に関わる相続人である場合は、親が未成年者を代理することはできません。そのような場合には、家庭裁判所に申し立てを行い、「特別代理人」を選任する必要があります。特別代理人は、親に代わって未成年者の権利を守るために協議に参加します。
また、相続人が未成年であっても、相続税の申告・納税は必要です。遺産分割協議が未成年者の成人後に行われる場合でも、期限内に適切な手続きを行うことが重要です。
おわりに:遺産分割協議は慎重に!
遺言書がない場合、遺産分割協議が必要になります。この協議は、相続争いを防ぐためにもしっかりと行うことが大切です。協議がまとまったら、必ず遺産分割協議書を作成し、記録に残しましょう。
遺産分割協議のやり直しは非常に手間がかかり、相続人同士の新たなトラブルを引き起こす可能性もあります。協議をやり直す必要がないように、相続人と相続財産の確認は慎重に行い、協議前にしっかりと準備をしておくことが大切です。
また、遺産分割の内容によって相続税額が変わることもあるため、税理士に相談しながら進めることも良いでしょう。
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